アップルは2019年6月3日(現地時間)に開催された開発者向けのカンファレンス「WWDC2019」で、音楽・動画コンテンツの管理アプリ「iTunes」の廃止を明らかにしました。今後は、サービスを3つに分割する方針となります。2001年に誕生し私達のライフスタイルに大きな影響を与えてきたiTunesが、デジタル化の中で音楽業界にどのような影響を与えてきたのか振り返ります。
※本記事は、2019年6月6日に公開された記事を一部再編集しております。
「みんなで」から「ひとりでも」へ
1979年に発売されたSonyのWALKMANは、音楽業界における大きな変革のきっかけといえます。
「いつでも・どこでも・気軽に音楽を楽しむ」をコンセプトに、大勢がいる場でもパーソナライズされた空間を音楽で楽しむ、という新しい市場を作り出してきました。
WALKMANの誕生以前の日本は、1964年の東京オリンピックに象徴されるように、家族や町内などの大勢でひとつのテレビを見て楽しむ時代でした。当時、音楽はテレビ同様、ひとりで楽しむものではなく大勢で楽しむものでした。
しかし、それぞれが自分の空間の中で自分流の時間を過ごすライフスタイルへ変わる中で、WALKMANは大きな役割を果たしました。
WALKMANは、CDを購入あるいはレンタルし、自分だけのプレイリストを作成、そして外に持ち運び移動時間にも音楽を楽しめる時代を創りました。かつては私もその時代を楽しんだひとりです。
大勢の中にいながら、自分だけの空間で自分が好きな音楽を聞く。それは、音楽とシーンの融合が始まった時代であるとも言い換えられます。
iTunesが変えた音楽の選び方
iPhoneが発売される2007年から遡ること6年前、2001年10月に、初代「iPod」の発売と同時に連携するソフトウェアとして、「iTunes」のサービスが開始されました。当時は、CDを介して音楽を楽しむことが当たり前でしたが、iTunesを通じ、欲しい音楽をダウンロードしてプレイリストに加えられるようになりました。更に、欲しい1曲だけをダウンロードすることもでき、アルバムやシングルCDが一つの作品と見られる側面は形骸化されていったように感じます。また、料金プランは、1曲ないしアルバム毎の課金性でのダウンロードが主流でした。
その後、日本ではSpotifyの上陸が話題をさらったように、サブスクリプションモデルの音楽の楽しみ方が若者を中心に普及していきました。Amazon Music、Spotify、LINE MUSICなど様々なプレイヤーが参入し、月額1000円未満のサービスも多く、非常にお手頃な価格で何千曲が聞ける環境が手に入るようになりました。
サブスクリプションで音楽を楽しむユーザーは増加しており、日本レコード協会の調査によると2018年は130%の市場の拡大がありました。
デジタル化がアーティストに与えた影響
音楽市場のデジタル化により、アーティストの収入源も大きく変化してきました。CDの売上が低迷し、ゴールデンタイムの音楽番組の撤退が相次ぎ、アーティストには常に変化が求められています。かつてはCDのプロモーションのために開催されていたライブも、近年は少し様子が違うようです。
CDでの収入が見込みにくくなり、ライブなどの興行がアーティストの収入源になってきています。2010年に比較して、ライブチケットの平均単価が1.4倍にまで上昇しているというデータも調査もあります。(コンサートプロモーターズ協会のデータから入場者1人あたりの単価を計算)
興行がプロモーション活動としての側面から、エンターテイメントの提供としての側面が強くなってきているのです。ひとつの象徴として、AKBグループも会いに行けるアイドルとして、日々の興行を大事にしています。
デジタル化によりどこでも音楽を聞ける環境が、リアルな音楽の価値を高めていると読み取ることも出来ます。
これから、音楽業界はどのように変わっていくのか。
ここまでデジタル化の波で、変化を迫られてきた音楽業界の動向を見てきました。少し未来について考えてみたいと思います。個人的には、【パーソナライズ化】と【コラボレーション】がキーワードになるように思います。
【パーソナライズ化】
Google、Facebookを始め、デジタル化の大きな象徴が情報のパーソナライズ化です。日々私達が手にする情報は、自分の趣味嗜好にカスタマイズされた情報です。便利な一方で、特徴のない情報が埋もれてしまって、気づけないことも多々あるのではないでしょうか。
音楽業界のプラットフォーマーも同様に、ユーザーの趣味嗜好に合わせて、どのような音楽だと気に入ってもらえるかという観点で、機械学習が広がると想定してます。
だからこそ、アーティストは、尖った特徴を持つことで、一定のファンを獲得する時代になるのではないでしょうか。また、曲だけでなく、その曲の背景やアーティスト自身の情報も開放し、曲だけでなく、アーティスト個人がファンから受け入れられるかが重要なファクターとなる気がします。
【コラボレーション】
音楽だけを提供することは、もちろん重要ですが、どのような場所で聞くのか、どのようなシーンで聞くのかということがよりユーザーの満足度を上げるために重要なファクターになるようにも思います。
例えば、スポーツでのハーフタイムショーが音楽と融合されたり、都会から逃げたい人を対象としたコンサートをマイナスイオンあふれる環境で実施するだとか…掛け合わせの中で、新しい価値を生み出すことが求められる可能性があります。
デジタル化は、私達の日常の活動に大きく影響を及ぼします。
ダーウィンの名言「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である。」でもあるように、デジタル化の波に上手く乗れたものが、これからの社会を作っていく存在になるのかも知れません。
【執筆】奥村高大 (おくむら たかひろ)
同志社大学卒業後、銀行に就職。その後、企業の経営課題解決を目的とするフリーランスのシェアリングサービスに従事し、2018年にエルテスに入社。事業推進Grにて、マーケティング業務を中心に、デジタルリスクラボの立ち上げ、運営、執筆を行う。
デジタルリスクラボ編集部
デジタルリスクラボは、株式会社エルテスが、デジタルリスクから「企業成長」と「個人のキャリア」を守るためのメディアとして運営。株式会社エルテスが提供するデジタルリスク対策サービスは、こちら。