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加速する情報流通の変化。音楽業界に見るSNSの影響力。

SNSを始めとした情報流通の変化は、様々な業界に影響を与えています。以前「音楽業界に迫るデジタル化の波」として、デジタル化によるアーティストの収入の内訳変化などを取り上げました。今回は、売れる音楽(バズる音楽)とSNSの関係を調査し、企業のマーケティングや広報担当者が知っておくべき情報伝播の変化をまとめました。

音楽チャートに異変!?音楽とSNSの親和性。

最近のヒットチャートにランキングする楽曲の中には、SNSで”バスった”楽曲と言われているものが多く存在します。

例えば、YOASOBI「夜に駆ける」は、2019年11月にYOASOBIのプロデューサーAyase氏の YouTubeチャンネルにて公開されました。「小説を音楽・映像に具現化する」というコンセプトがSNSで話題となり、YouTubeのOfficial Music Videoの再生回数は、1.6億再生(2021年2月9日時点)を突破しています。年末の紅白歌合戦にも出場し、大きな注目を集めています。

また、芸能人をはじめとした様々なユーザーによる「歌ってみた」動画が多く公開されて、注目を集めた瑛人「香水」は、発売当時(2019年4月)はあまり注目されなかったものの、TikTok動画の音源として多く使用されたことをきっかけに広く注目され始めました。YouTubeのMV再生回数は1.3億再生(2021年2月9日時点)を突破しています。

2020年を代表する楽曲となった2つには、共通点が存在します。

① SNS発信がブームのきっかけ
② 15秒のキャッチ―なサビ

① SNS発信がブームのきっかけ

この2つの楽曲は、CDをリリースすることなく音楽チャートの上位を獲得しています。どちらの楽曲もリリース後、TikTokなどのSNSで「踊ってみた動画」や「歌ってみた動画」の音源として広く使用され、中高生を中心に人気が広がりました。それらをきっかけに、TVなどのマスメディアの音楽番組で取り上げられ、さらに広い世代に広がっていきました。

② 15秒のキャッチ―なサビ

もう一つ2つの楽曲には、共通点があります。それは、サビは15秒で、キャッチ―なフレーズが耳に残ることです。15秒は、TikTokで動画を公開できる標準的な尺でもあります。サビが15秒に収められていることは、TikTok動画の音源として使いやすいという要素を持つことを意味します。

SNSで多くのコンテンツ見ているユーザー視点で考えると、短尺の楽曲はストレスなく受け入れやすい楽曲ともいえ、15秒のキャッチーなサビが、バズる要素の一つと考えることが出来ます。

つまり、現在の音楽業界において、ヒットチャートにランクインすることにCDのリリースが必ずしも必要ではない現象が発生しており、SNSが楽曲広げる力を持っていると言えます。では、2つの楽曲が話題になるきっかけとなった、TikTokとはどのようなSNSなのでしょうか?

TikTokとは

TikTokとはショートムービーを投稿、閲覧できるSNSです。
2016年にサービスの提供が開始され、その2年後には世界中で5億人のアクティブユーザへ到達しています。また、2018年第1四半期に世界で最もダウンロードされたアプリにも選ばれています。
2010年に提供開始されたInstagramも現在人気を博していますが、5億人のアクティブユーザに到達するまでには6年かかっていることと比較すると、TikTokの爆発的な広がりが驚異的であることが分かります。

TikTokの魅力は、誰もが配信者=クリエイターとなれることです。
長尺の動画も投稿できるYouTubeと違い、TikTokの配信動画の尺は、15~60秒と非常に短くなっています。YouTubeのような長い尺の場合、視聴者は動画に対し“自分にとって役に立つかどうか”を考え、視聴するコンテンツを判断します。

しかし、短い尺の場合、視聴者はコンテンツの中身ではなく一瞬のインパクトやBGMが視聴するかのポイントになる傾向があります。

また、TikTokの場合、BGMやエフェクト、フィルターなど様々な素材がSNS側で用意されているため、ユーザーは知識がなくても簡単に動画を作成し、“盛る”ことができます。配信者は、視聴者が魅力を感じ拡散したくなる動画を簡単に作成することも特徴です。更に、配信者の使用する素材は、ユーザーであれば誰でも使用することができるので、視聴者から配信者になることも簡単です。このように、TikTokは誰もがクリエイターになり、自分自身をアピールすることができるSNSとも言えるのです。

誰でもクリエイターになれるTikTokを企業は、どのように活用しているのでしょうか。

SNSを活用したプロモーション

実は、VOGUE JAPANでは、TikTokで公式アカウントを開設し、アーティストのMVクリエイターを募集するキャンペーンなど、様々なプロモーションに活用しています。また、出版業界やアーティストだけでなく、消費財メーカーなどの企業もTikTokを活用したプロモーションを行っています。

これらの企業の多くはTikTokだけではなく、TwitterやInstagramなど他のSNSアカウントも活用しています。では、企業はそれぞれのSNSをどのように使い分けているのでしょうか?

今回は、SNS上でも話題を呼んだゼスプリインターナショナルジャパンのキャラクター、キウイブラザーズに関する公式SNSアカウントの使い分け方を分析してみたいと思います。

キウイブラザーズとは、ゼスプリ社の製品であるキウイを模したキャラクターです。キウイブラザーズが出演するCMは、2020年6月に発表されたCM好感度ランキング(CM総合研究所)で1位となりました。

ゼスプリ社は、人気キャラクターをSNS上でどのように活用し、プロモーションに立体感をもたせているのでしょうか。

Twitter(ゼスプリキウイ公式

フォロワー:35.2万(2021/02/16時点)
投稿内容 :季節イベントに関する投稿、プロモーション告知など

特徴
投稿内容は、イラストや写真と合わせたテキストが多く、キウイブラザーズの生活の様子やCM撮影の裏側など、キウイブラザーズのキャラクターを表した内容が多く発信されています。動画投稿の際は、YouTubeアカウントのリンクを貼り、動線を作っています。企業のPRアカウントであることを感じさせず、キウイブラザーズ自身が投稿しているような感覚を受けます。
自身の発信だけでなく、投稿をリツイートしたフォロワーに対するリアクションもあり、Twitterはフォロワーとの交流の場となっています。
また、投稿に関するリプライや、「キウイブラザーズ」を含む投稿を調査したところキャラクターやTVCMに対する好意的なコメントが多く、キャラクターとして好意的に受けいれられていることも分かります。

YouTube(ゼスプリ キウイフルーツ

チャンネル登録者数:6.08万(2021/02/16時点)
投稿内容:TVCM、キャラクターによるダンス動画、WEB限定動画

特徴
TVCMや、WEB上の限定動画を公開しています。限定動画では、キウイブラザーズが解説するキウイの栄養に関する動画や、おいしいキウイの見分け方などのお役立ち動画が多く公開されています。また、2017年5月以降公開された動画は、コメント欄も公開されており、視聴者の反響も見ることができます。

Instagram(ゼスプリキウイ公式

フォロワー:17.7万(2021/02/16時点)
投稿内容:キウイを使ったレシピ、季節イベントの写真、CMソング配信の告知

特徴
Instagramの投稿では、映えるといわれている、俯瞰図を用いた料理画像やぬいぐるみを用いた“ぬい撮り”写真などInstagramのフィードで流れてきたときに思わず“いいね”をしたくなるような投稿ばかりです。
フォロワーに与える情報の価値としては、ハッシュタグを用いてキウイプレゼントキャンペーンなど、お得な情報が発信されています。その他にも、様々なキウイの食べ方の提案を映える写真で行っているところも特徴的です。

TikTok(ゼスプリ キウイ

フォロワー:11万人(2021/02/16時点)
投稿内容:なし

特徴
動画の投稿はありませんが、すでに多くの人にフォローされています。以前、CM内で使用されている楽曲のMVを作成するため動画をTikTokにて募集するという参加型キャンペーンを行っており、その影響でフォロワーが増えたと考えられます。
キャンペーンのハッシュタグ「#アゲリシャスバイト」がつけられた、参加者の投稿した動画は105.9万回視聴されています。キャンペーンには、アーティストやTikTokerと言われる、TikTokで多くのフォロワーを集めるユーザーが起用されており、TikTok上でキャンペーンの広がった要因のひとつと考えられます。

事例に見る各SNSの役割

それぞれのアカウントの特徴を整理してみると、SNSごとに異なる目的があることが考えられます。

ゼスプリ社のSNSの活用方法を見ると、それぞれのSNSの特徴や、利用しているユーザー層に合わせた活用を行っているように感じます。また、TVCM放送を中心に、SNSそれぞれの特色を組み合わせることで商品に対する好感度、認知を高め購買につなげようとしている試みも見て取れます。(図2参照)

また、それぞれのSNSの役割は、消費者行動モデル「SIPS」の視点からみても効果的であると考えられます。「SIPS」とは、株式会社電通が発表した概念で、ソーシャルメディア時代の消費者行動モデルといわれ、消費者の「購買」ではなく、消費者との「コミュニケーション」に焦点を当てた行動モデルです。

SIPSは4つのプロセスで成り立ちます。
・S(Sympathize/共感) = 発信元に共感する
・I(Identify/確認) = 自分にとって有益な情報かどうか確認する
・P(Participate/参加 )= 投稿に「いいね」する、フォローする、キャンペーンに参加する
・S(Share&Spread/共有・拡散) = 自分のアカウントでシェアする、投稿する

これを、キウイブラザーズの各SNSに当てはめてみましょう。(※図2)
・S=Twitteの投稿内容、キャラクターに共感する
・I=Instagram、YouTubeでレシピや栄養に関する情報の確認
・P=Twitter、Instagramのプレゼントキャンペーンの参加/TikTokで動画投稿キャンペーンの参加
・S=Twitterで気に入った投稿の共有、拡散/Instagram、TikTokでハッシュタグをつけて投稿する

このように各SNSで消費者の購買を促すだけでなく、SNS上でキャラクターや製品に対する共感を生み、いままで接点のなかった人へもキャラクターや製品の認知を拡大させ、興味関心を持ってもらう役割を果たしていることが分かります。

SNSごとにそれぞれの意味や目的を持たせることで、消費者の購買行動だけでなく、SNS上の行動にも影響を与えているのです。
SNSを活用したプロモーションを考える上で、消費者の行動のゴールを「購買」だけに設定するのではなく、「SNS上の共有・拡散」もゴールに設定することが、SNSの持つポテンシャルを発揮し、プロモーションを成功させるポイントとなるのではないでしょうか。

これからのSNSのトレンド

SNSはこれまでテキスト、画像、動画、と次々に形を変えて発展してきました。次のトレンドとして注目されているのが「声のSNS」です。米国では、音声版Twitterとよばれる「Clubhouse」というSNSが公開され注目されています。2021年1月の末には、日本でも注目を集めており、招待枠がフリマ市場で売買されるほどに注目を集めています。

Clubhouseの仕組みは、配信者が“部屋”をつくり、他のユーザーを招待し会話を楽しんだりするSNSです。正式公開前にもかかわらず、100億円もの時価総額がついていると言われています。今後、どのようにマネタイズしていくのか、EXITするのかは、起業家から注目を集めています。

このように大きな注目を集める理由は、配信者がつくった“部屋”でお互いの音声を聞く、というユーザー同士のつながりをリアルに感じる仕組みや、音声は残されずその時しか聞くことのできない“限定感”にあるのではないでしょうか。FOMO(Fear of missing out:取り残されることへの恐れ)といわれるSNS時代特有の心理的不安を感じる人にとっては、“限定感”は大きな魅力でしょう。

SNSのトレンドが変われば、企業のSNSマーケティングの手法も同じように変化させていく必要があると思います。これからの時代のSNSは、コミュニケーションの“リアル感”と、コンテンツの“限定感”がトレンドとなるかもしれません。

成果につながるマーケティングのためには、市場(外部環境)を知ることが非常に重要です。1年もすれば、SNSの環境は大きく変化しています。マーケティング施策を打つ前に、必ず現在の市場環境と自身のSNSへの理解に相違がないか、確認することをおすすめします。

参考資料:
2020年6月前期 好感要因「商品にひかれた」銘柄別TOP10(CM総研研究所)
電通「サトナオ・オープン・ラボ」がソーシャルメディアに対応した消費行動モデル概念『SIPS』を発表(株式会社電通)

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デジタルリスクラボ編集部

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