グループ子会社が炎上したとき、炎上した会社自体に批判や問い合わせが集中するのは想像できますが、親会社やグループ全体にも炎上の影響が出ることを考えたことはあるでしょうか?今回は、実際にあった事例を通して子会社の炎上が親会社・グループ全体にかかるリスクと親会社が行うべき対策を紹介します。
子会社の炎上で親会社が対応を求められた事例
2021年、ある企業が出稿した駅のデジタルサイネージ広告のクリエイティブに批判が集まり、炎上しました。広告は出勤するビジネスパーソンに向けたメッセージでしたが、見た人を煽る印象や不快な印象を与えてしまうと批判を受け、企業は広告掲載開始からわずか1日で謝罪し広告を取りやめる事態になりました。
この炎上の影響はそれだけでは留まらず、その1か月後に開催された親会社の決算説明会で、株主から炎上した広告への質問が相次ぎ、親会社が説明を求められました。配慮に欠いた広告によって炎上してしまう事例は多々ありますが、親会社の決算説明会で説明を求められたことでさらに注目を集めました。
別の事例では、ある化粧品メーカーがステマ疑惑で炎上した際に、当事者である企業からの発表に加えて、親会社からもプレスリリースが配信されました。これらの事例から、近年はネット炎上に遭ってしまった会社が子会社もしくはグループ会社であった場合、親会社にも説明責任など対応が求められると考えて良いでしょう。
子会社の炎上で親会社に求められる責任
子会社が炎上した場合、親会社には外部と内部への対応が求められます。大きく以下の3点になります
- 対外的な説明・広報対応
- 株主への説明責任
- グループ全体での再発防止策の取り組み
①対外的な説明・広報対応
まず親会社には迅速かつ適切な広報対応が求められます。この場合に求められるのは、子会社と連名で同じ広報を発表するのではなく、親会社の立場として、親会社の責任や、不祥事を起こした子会社とその他のグループ会社への対応を表明することが大切です。
急なクライシス対応のうえ、自社内ではなく子会社の不祥事であれば実態の把握に時間がかかり、その間に批判が増大することも考えられます。迅速に対応できるように、日ごろから連携フローや対応手順を整理しておきましょう。
②株主への説明責任
上場している企業であれば、株主に対して説明することも大切です。炎上のようなインシデントの発生は、コーポレートガバナンスの観点からの批判や、株価への影響という観点での批判が株主から生じうることが想像されます。冒頭の事例で紹介した通り、炎上した会社の親会社が決算説明会という場で株主から説明を求められることも実際に起きています。株主からの信頼や企業価値を下げないためにも、①と同様に親会社の立場として起きた不祥事に対して説明や質問への回答を行いましょう。
③グループ全体での再発防止策の取り組み
炎上した事例によっては説明責任の中に、再発防止の取り組みを含める必要があります。この再発防止策は親会社や炎上した会社はもちろん、当事者ではないグループ企業にも適応させることが大切です。グループ企業への適応を行うことなく、短い期間で別のグループ企業が炎上するなど同じようなインシデントを発生した場合の批判は必至です。
また、炎上への早期対応も、再発防止策の実行も、業務負担が大きく、本来行うべき業務にリソースを避けない環境となるリスクもあります。予防策の実行を検討しましょう。
子会社の炎上でグループに生じるリスク
子会社が炎上した場合、親会社およびグループ会社への影響は以下の2点が考えられます。
- 親会社およびグループ全体の評判低下、ブランド毀損
- ビジネスや市場への悪影響
親会社およびグループ全体の評判低下、ブランド毀損
昨今のネット炎上の傾向として、SNSで批判が集まった場合、その媒体内に留まらずネットニュースに取り上げられてしまうことも多くあります。炎上の規模が大きくなった場合、さらにマスメディアのテレビや新聞に取り上げられることもあります。その際に、「●●株式会社の子会社が炎上」という見出しで親会社の名前が使われる可能性が十分に考えられます。
実際のインシデント発生に対して、親会社は無関係であったとしても、見出しを見た人にとっては、親会社の管理が行き届いていないという印象が植え付けられる可能性があります。ガバナンスが弱い企業、批判を受けた内容を肯定的に考えている企業などのイメージが醸成され、結果としてはレピュテーションの低下、ブランド毀損に繋がりうると言えます。
ビジネスや市場への悪影響
炎上は株価下落にまで影響すると言われています。ネット炎上は評判低下やブランド毀損だけではなく、一時的な売り上げ低下や対応コストの発生など、ビジネスへの悪影響が出ます。その結果、市場からの業績期待が低下し、株価に影響すると考えられます。
これは学術研究においても同様のことが示唆されており、2017年に発表された慶応義塾大学の田中辰雄教授の研究では、炎上によって株価が0.7%低下する研究結果を発表しています。その他にも、東京大学大学院の武田史子准教授の研究でもネット炎上への対応の仕方で株価の下落に影響が与えることを示しています。
前述したとおり、子会社が炎上しメディアに取り上げられた場合、親会社の名前も一緒に出てしまうことがあります。炎上の内容や規模によって影響の大小は左右されると考えられますが、子会社の炎上によって親会社やグループ全体の評判の毀損、ビジネスへの悪影響、ひいては株価が下がる可能性は十分に考えられます。
親会社が取れる炎上リスク対策
グループのガバナンス強化
まずひとつは、グループのガバナンスを強化することが大切です。2015年に東京証券取引所と金融庁が制定したコーポレートガバナンス・コードが適用されて以降、上場企業を中心に多くの企業でコーポレートガバナンスの強化が取り組まれてきました。そこに加えて、子会社の不祥事問題などを背景として、グループでの企業価値向上を目的としてグループ経営のガバナンスが議論されるようになり、2019年には経済産業省から「グループガバナンスシステムに関する実務指針」というガイドラインが策定されました。
ガバナンス(governance)はそもそも統治や管理などを意味する言葉で、「コーポレートガバナンス」や「グループガバナンス」はその企業や子会社を含めたグループの管理体制といった意味合いで使われます。先に言及したようなSNS炎上への対策としてはグループ全体の有事に対する責任と対応指針を明確化しておくことが大切です。経済産業省の「グループガバナンスシステムに関する実務指針」でも子会社で不祥事が発生した場合の親会社の在り方などがまとめられています。
子会社の炎上は時として親会社やグループ会社全体のレピュテーションにダメージを与える可能性があります。被害を最小化する早期対応ができるように、グループの管理体制を強化することが重要です。
グループ全体を対象としたリスク検知体制の構築
グループガバナンス強化の具体的な対策になりますが、親会社を中心にグループ全体でSNSリスク研修やSNSやWebのモニタリングを行うなど、リスクの予防と早期発見の体制構築を進めておくことも有効な対策です。
グループ会社ごとに対策を進めてしまうと、対策や有事の対応にばらつきが出てしまい、余計なコストがかかってしまうかもしれません。また子会社の規模によってはリスク対策に十分な人的・金銭的コストが掛けられない場合もあります。先のグループガバナンスの観点も踏まえ、親会社でリスク対策の部署を設置する、リスクマネジメント施策を実行する、などの対策の実施が大切です。
リスク対策を相談できる外部パートナーを見つけておく
SNS炎上などの原因には、従業員の不適切投稿や公式アカウントの誤爆投稿などがありますが、同様によくあるのが、広告内容に対して批判が殺到ケースです。長く広告運用している場合や運用メンバーが変わっていない場合など客観的な意見が取り入れづらくなっている環境で、炎上リスクが判断できず燃えてしまう事例があります。
その対策として、リスク対策を相談できる外部パートナーを見つけておく方法があります。大切なのは事前にパートナー会社を用意しておくことです。炎上してから企業を探すと適切かつ迅速な対応ができないため、リスク対策を講じる時点で第三者の外部パートナーを作っておくと、適切な予防と対策が取れます。
グループ全体を意識したリスクマネジメントの強化を
子会社の炎上事例をきっかけに、親会社のグループ会社に対するリスクマネジメントの重要性が高まっています。特に上場している企業であればグループとして企業価値も見られており、子会社の不祥事に適切な対応が取れないと、親会社およびグループ全体の評価が下がってしまう可能性があります。
株式会社エルテスでは、グループ会社を対象としたリスク研修やモニタリングサービスも提供しています。子会社も含めたリスク対策をお考えの企業様はお気軽にご相談ください。
参考
ネット炎上が株式市場に与える影響についての研究(日本証券業研究会)
炎上の株価への影響:日本のケース Effect of Flaming on Stock Price: Case of Japan(慶応義塾大学経済研究所)
「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」を策定しました(経済産業省)
デジタルリスクラボ編集部
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