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SNS炎上の被害とは?心理学の観点から対策の必要性を解説

企業のプロモーション活動で活用が進むSNSですが、時に炎上に繋がり、企業レピュテーションの低下に繋がる可能性もあります。しかし、SNS炎上が発生すると、漠然と企業の評判に影響を与えるのではないかと感じながらも、具体的にどのような影響を与えるのかイメージできない方も多いのではないでしょうか。そこで、今回は認知的不協和の観点からSNS炎上が、企業活動に与える影響を説明します。

SNS炎上とは

私たちは、SNS(ソーシャルネットワークサービス)上で情報取得や、コミュニケーションを行っています。企業も、SNSのプラットフォーム上でプロモーションを行い、商品認知や、インタラクティブな顧客との会話を通じたファン化などの施策を行っています。

2018年に実施された総務省の情報通信白書でも、全世代では6割がSNSを利用しており、13歳~49歳の層では7割以上がSNSを利用しているという結果も出ており、SNSは私たちの日常生活に浸透していると言えます。

情報通信白書を元にエルテス作成

日常的に活用しているSNS空間ですが、実は毎日のようにSNS炎上が発生しています。具体的には、有名人、著名人などの個人への誹謗中傷が発生するケースや、企業のコンプライアンス違反の発覚に繋がるSNS投稿から炎上するケースなど、炎上の種類、原因は枚挙にいとまがありません。

具体的には、下記のような投稿が炎上の火種になります。

XXXのアルバイトが、勤務時間中に〇〇をしている。こんな企業の店舗には行きたくない!

XXXの商品は安いが、理由は安い賃金と不当な労働環境。XXXはブラック企業!

このようなリスク投稿をした際に、起こりうることは、大きく2つあります。

(1)露出数の増加
「リツイート」や「いいね!」、「シェア」などによって、リスク投稿が多くの人のタイムラインに露出する、「トレンド」などに取り上げられて、露出が増える。

(2)炎上への加担
「リツイート」や「いいね!」、「シェア」、「コメント付きのリツイート」をユーザーが行う

(1)の露出数の増加によって、投稿を見たユーザーが共感し、リスク投稿の批判の対象先にネガティブな感情を持つことが考えられます。

また、(2)の炎上への加担は、実際に投稿を認知するだけでなく、共感し、アクションを行います。場合によっては、自らの過去の経験や主張とともに、コメント付きのリツイートを行い、リスク投稿に強く同調し、対象先を批判するアクションを取るケースも含まれます。総務省の平成27年度版情報通信白書でも内容への共感がSNSの拡散基準の最大の理由であると発表されており、リスク投稿への共感が炎上への加担に繋がると考えられます。

もちろん、アクションを行うユーザーには、リスク投稿を打ち消すような行動を取るケースもあります。

(2)のようにリスク投稿に共感し、炎上に加担する何らかのアクションを取ったユーザーは、どのような心境の変化があるのでしょうか。もう少し掘り下げてみたいと思います。

今回は、1957年に発表されたアメリカの心理学者の提唱する「認知的不協和理論」を切り口に解説していきます。

認知的不協和理論とは

まず、簡単に認知的不協和について紹介します。

アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーが1957年に発表した理論です。一言で表現すると、「人は自分の行動を合理化するために、意識を変化させることがある」という理論になります。
『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(2018年 山口周)には、朝鮮戦争当時、中国共産党の捕虜となったアメリカ人たちが、共産党主義に洗脳されたエピソードを紹介しています。そこに書かれている主旨は下記のようなものです。

・中国共産党は、捕虜となったアメリカ兵に「共産主義にも良い点はある」という簡単なメモを書かせ、メモを書くことでタバコやお菓子などのごく僅かな褒美を与えた。

・アメリカ兵は、共産主義は敵だと思っていたが、共産主義を擁護するメモを書いている。ここで褒美が贅沢なものであれば、この共産主義を擁護するメモを書いた事実は、褒美のためであるとストレスを消化することが出来ます。しかし、実際はタバコやお菓子などの小さな褒美であり、意思に反する行動を行ったストレスは消化されない。

・結果として、「共産主義は敵である」という信条と「共産主義を擁護するメモを書いた」という行為の間の不協和が発生してしまう。

・行為は事実であり、変更することが出来ない。変更できるのは、信条。信条を変更し、「共産主義にも良い点はある」と思い込むことで、行為と信条のあいだで発生している不協和のレベルを下げることが出来る。

認知的不協和理論は、信条が行動を決めるのではなく、行動が信条を決め、次の行動を呼び起こすということを示唆しています。山口氏の言葉を借りて言い方変えると、『人間は「合理的な人間」ではなく、後から「合理化する生き物」である』と言えます。

もう少し私たちの身近な体験に話を移してみましょう。

後輩から会議で提案されたアイデアを、一度却下してしまった後に、改めて考えてみるといいアイデアだったと感じることがあったとします。
しかし、一度却下した事実は変えられません。後日、後輩のアイデアを活用することを検討しますが、そのままアイデアを採択することを受け入れることに不協和、つまりストレスを感じるのではないでしょうか。
その際は、後輩のアイデアを一部修正したり、環境が変化したという前提をつけることで、不協和のストレスを解消し、アイデアを採択することを検討することもあるかも知れません。あるいは、いいと思いながらも不採択の選択するケースもあるかも知れません。

ここで、SNS炎上に話を戻したいと思います。

認知的不協和理論から考えるSNS炎上対策の必要性

企業に関するリスク投稿を見た際に、リスク投稿に共感するようなアクションを行ったユーザーは、衝動的に企業を否定した行動であったとしても、一度その企業を否定してしまったという事実は残ってしまいます。

その後、否定した企業のサービス購入を検討する時、過去にその企業を否定したという事実と、これから行う消費活動に不協和が生じる可能性があります。その時、ユーザーはストレスを感じてしまうことを避けるために、他社のサービスを購入してしまうことや、サービスの購入自体を辞めてしまう可能性が考えられます。

SNS炎上に加担した経験がこのように消費行動に影響を与えているとすれば、SNS炎上は売上だけでなく、採用活動や株取引など、企業活動に大きな影響を与えているのかも知れません。

ここから考えられることは、SNS炎上は、一度炎上したという事実は消えないということです。そして、その炎上に加担したユーザーは、その企業やサービスにネガティブな感情を持った経験があるという事実です。

もちろん、SNSは複数のアカウントを持つことができ、異なる人格を形成して活用しているケースでは、現実世界とのリンクが薄くなるという考え方もあります。その場合は、一度否定した事実が、現実世界の消費行動等に与える影響の濃度は低くなる可能性もあります。

逆に、実名登録のメディア(Facebook等)での発信、口コミサイト(@cosme等)での見てもらうことが前提の発信は、匿名のメディアに比べると心理的な責任を伴っていると言えます。そのような心理的な責任を伴っている状態での否定的な情報発信を行った場合、認知的不協和によって次の意思決定に影響を与える可能性が高まるのではないかと考えられます。

SNS炎上からレピュテーションを守る大事な観点

ここまで認知的不協和理論からSNS炎上が与える影響を説明してきました。企業のレピュテーションに大きな影響を与えうるSNS炎上を防ぐためにどのようなことが出来るのでしょうか。ここでは、大事な観点となる2つを紹介します。

1人でも炎上加担者を減らす

1つ目は、炎上の火種が検知された時点で大きな炎上に繋がらないように早期に対応することです。具体的には、炎上の火種を見つけること、その後の適切な対応を迅速に行い、炎上に共感するユーザーを1人でも減らすことです。企業は、炎上が治まったことに安心するのではなく、炎上で自社のファンを失ってしまった(ユーザーがネガティブな行動を行った)事実に向き合う必要性があります。

ファンの育成

2つ目は、認知的不協和理論を逆転の発想から見てみると、普段からその企業に好意的なアクションを行っているユーザーは、過去の自らの行為と照らし合わせて、炎上に加担するようなアクションを取ることにストレスを感じるのではないかという点です。これは、SNSを通じたユーザーとのインタラクティブなコミュニケーションやコンプライアンス遵守、CSR活動などユーザーから好感を持ってもらえるような施策を行うことで、炎上を最小限に抑えうることが出来ると考えられます。

今回は、認知的不協和の理論からSNS炎上が与える影響を考察しました。炎上という事象を沈静化するのではなく、自社のファンを増やし続けるために、炎上を起こさないことが大事であるということを考えて頂けると幸いです。

 

参考資料

武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50(山口周著/出版社:KADOKAWA)
令和元年版情報通信白書|インターネットの利用状況(総務省)
平成27年度版情報通信白書|ソーシャルメディアの普及がもたらす変化(総務省)

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